カウンター Love song of last winter〜ひと夏の思い出〜 後篇
Love song of last winter 〜ひと夏の思い出〜 後篇

 

「で、どこに行きたいの?」

 

家を出て前の公園へと舞台を移し、ベンチに腰かけて彩華に尋ねる。

木陰にあるため、この暑い中少しだけ涼しい風の恩恵を貰うことができる。

こうして座っているだけでも暑いのに、子供たちはよくこの中で走り回ってたりできるもんだ

ホント、感心するなぁ

 

「そやな、せっかく夏やし花火でもみにいこぅ!」

「花火??まだ明るいのにやってるわけないじゃない」

 

そう、まだ明るい、太陽が燦々と降り注ぐ空は今日も雲ひとつない晴天である。

こんな時間に花火など打ち上げる人間がいるだろうか、いや、居はしないだろう。

 

「そんなのわかってるってば!」

「じゃあ花火って?夜までどうするの?」

「なにいってるんよ!今日はお祭りやん、十分夜まで時間つぶせるやろ?」

 

あぁ、そう言えば今日はうちの近くにある神社で祭りをやってたんだっけなぁ。

毎年やってる規模はどっちかって言うと結構大きめだと思うんだけど

最後には花火なんかも上がったりして結構地元では有名なお祭りだ。

 

「あぁ、それ今日だったんだ

「そう、だから、いこ!」

「そうだな、そうしますか」

 

そう言うと僕らはベンチから立ち上がると神社に向かって歩き出した。

 

最初は少なかった人ごみも神社に近づくにつれ段々多くなってきた。

神社まで後もうすぐってくらい近くに来ると結構人でごった返してる。

 

「へぇ〜、結構人多いねんなぁ〜」

「そうなね、僕も始めてじゃないけど、もうずいぶん来てないから忘れてたなぁ」

「ねぇ、連」

 

人の多さに感心していると、急に彩華が声をかけてきた。

 

「手、離さないでね

 

いつもの明るい彩華からは少し離れた、気弱な口調でそう話しかける彼女の顔は不謹慎だけど、見る人すべてを恋に落しそうなほど可愛かった。

 

メインの花火までまだまだ時間があったため神社やその周辺に出ていた屋台などを見ていると、瞬く間に時間は過ぎて行った。

彩華と過ごす時間はいつもこうだ。

楽しすぎてすぐに過ぎる

学校でいつも過ごしている時やこうしてたまに出かける時、そのすべてが新鮮で楽しかった。

だから終わってほしくなかった。

だけど時間は止まらい、ただ刻々と過ぎていく。

だけど僕はこうも思う、限りある時間の中で過ごすからこそ楽しいんだ――と。

 

「連?どしたん?ぼーとして

 

少し考え込み過ぎたかも知れない。

頭の中に意識が集中していて、外の方がおろそかになっていた。

彩華が心配してのぞき込んでくる。

 

「花火もうすぐ始まるんちゃう??」

 

彩華がそう告げるので時計を見ると、確かにもうすぐ花火の打ち上げ時刻だ。

 

「そうだね、そろそろ移動しないといい場所で見れないかもね、」

「そうやな〜、人、昼間よりも人も増えてきたしなぁ〜」

 

周りを見ると夜の花火が目当てなんだろう、カップルや親子連れが増えてきてる。

 

「こうなるなら浴衣でこれば良かったなぁ〜」

 

そう言えばあたりは浴衣の人たちが結構多い。

まぁ、僕たちの場合は最初から来ると決まっていたわけじゃないから、仕方ないと言ってしまえば仕方ない。

でも、本当にすごい人だ

気をつけないと彩華とすぐにでもはぐれてしまいそうだ

 

「仕方ないよ、急に決まったんだから。それより人が多くなって――

 

居ない……

僕が声をかけた先には、居るべきはずの彩華が居なかった。

はぐれた――!?

言おうとした先からはぐれてしまった!?

 

どうしよう!?

まずは探さなきゃ、まだそんなに遠くには行ってないはずだ!

 

僕がぼーとしてたせいだ、ちゃんとてを握っていれば

辺りを一面探してみたがなにぶん広い、それに人の流れに逆らうのが凄まじく難しい

 

「はぁっ、はぁ、くそっ、何処だ?」

 

もうすぐ花火が始まっちゃうな、どうする!?

あっ!そうだ、携帯だ!

 

そう思って電話を掛ける・・・・・

 

トゥルルルルルルルル・・・・・ガチャ

 

「もしもし!?彩華?今ど――

"お掛けになった番号は現在――"

 

ダメか電源が切れてるのかな?

後ほかに手は・・・・・・。 

 

ヒュルルルルルルルルルルルルルルルルルルル

 

甲高い音とともに夜空に上がる一筋の光

 

そして炸裂、夜空を照らす

 

「始まっちゃった・・・・」

 

情けない、女の子一人でさえ僕ははぐれさしてしまった

手、繋いでてって言われたのに

自分の手が空を握る

そこに在るべき人の手が無いから

 

ここで考えに浸ってる場合じゃない!

彩華はたぶん今も一人で待ってるから

早く行かなきゃ!

 

「あれ??片瀬かぁ??」

 

考えにふけっていた僕をまたこちらの世界に戻す声がした。

残念ながらそれは彩華の声ではなかった。

 

「よっ、木下か・・・」

 

そこには学校のクラスメイトが立っていた。

 

「何だよ、その期待外れみたいな声は〜」

「そ、そんな声してたか?」

「何だなんだぁ〜?祭りにでーとにでも来て彼女に逃げられた様な顔してんなぁ」

 

どんな顔だょ。

そしてなんでそこまでわかるんだよっ!

 

「まぁ、あたりって言っちゃ違うケドハズレでもないね・・・・」

「どういうこった?」

「まぁ、人とはぐれたんだよ

「彼女か?カワイイか?」

「黙っとけ!」

 

まぁ、御免だけど、今は木下の相手をしてる暇はない、一刻も早く彩華を探さないと

 

「すまん、人探してるから行くよ」

「そか、いいこと教えてほしいかぁ?」

「ん?なに?」

「さっき入り口の鳥居の前に超美人が立ってたよ。俺の勘だと、あの子誰かを待ってるな、うん。デート中かなぁ?結構一人で寂しそうにしてたぞぉ〜?まぁそれが片瀬の探してる奴とはわからないけどな

「いあ、ありがと。行ってみるよ」

 

そうして走り去ろうとすると

 

「片瀬、ヒドイ顔してるぞ、もしその人がお探しの人だったら引かれるぞ」

 

そう言って手に持っていたジュースを投げて僕に渡す。

 

「それ飲んで少しは落ち着け、それからでも遅くはないだろ?」

「ありがと、感謝する」

「そうか!感謝するのか!俺に!ならその彼女とやらを俺に紹介し――――って最後まで話聞こうね、片瀬君

 

上記の台詞からも解るように僕は木下の言葉を最後まで聞く前に走り出していた・・・。

 

木下が言ってた人が彩華という保証はなかったけど、なぜだかそれは彩華なような気がした。

だから体が走っていた、自分でも理由になってないと思うけどたぶんそこに居てほしかったんじゃないかな?

 

幸運なことに今は皆花火を見に行っているので鳥居まで戻る道は人はまばらで走れた。

あと少し――、その角を曲がれば鳥居だ!

 

「彩華!!」

 

角を曲がり叫ぶ。

鳥居の所らへんにいる人がほとんど振り向いて変な顔をしていたけど、その中に一つ見知った顔があった

 

「れん〜!!」

 

彩華だ――、良かった。

本当に良かった――

 

彩華がこっちに走ってくる。

そしてまだまだ走ってくる・・・。

って、ちょと、近すぎ!!

 

もう、僕と彩華の距離は3メートルも無い、そろそろ彩華が速度を緩めないと僕にぶつかるっぇえええ!?

 

「れんのぉ〜あほぉぉぉぉぉ!!」

 

飛び蹴り!?

 

そしてここまで走って来た僕にはもう避ける体力も受け止める体力も残ってないわけで――

そのまま彩華の蹴りがクリーンヒットする。

たぶん奇麗に弧を描いて吹っ飛んでたんじゃないかな?

視界がすごいことになってたから

 

「・・・・・・・・・・・うっ、もう駄目」

 

当然耐える力なんてないです。うん。

 

「れん!遅い!うちが何分待ったと思ってんのよ」

「ごめん

 

僕にはただ謝るしかできなかった

 

「手、繋いでてってゆーたやん!」

「ごめん

「まぁ、もうえぇよ、連も必死にうちの事探してくれてたんやろ?」

「うん、色々探したよ、でもごめん。花火に間に合わなかったね」

 

時計を見ると時刻はもう花火の終わりを告げている、もうすぐここも帰りの人でごった返すだろう・・・。

 

「ね?彩華まだ時間大丈夫?」

「え?うん、うちはまだ大丈夫やで

「じゃ、行こっ!!」

 

そう言って彩華の手を引いて走りだす。

今度は放さないように、しっかりと・・・。

 

「ねぇ〜、ここいつもの海岸沿いの道やんなぁ〜?こんなとこ来て何すんの?」

「まぁ、まってて。すぐ戻る!そこにいてね!」

 

そう言って僕は通りの向いのコンビニに入る。

目的の物を探してさっさとレジを済ませると、僕は急いで彩華の元に戻った。

 

「なにこーて来たん?」

「線香花火、一緒にしない?本当は打ち上げ花火とかあるかなぁ〜って思ったけどこれしか残ってなかったよ」

「いいやん、線香花火も、奇麗やし、好きやでうちは

 

そう言って彩華が線香花火に火を点ける。

 

「綺麗だね」

「うん、きれいやわぁ」

「今日はごめんね、花火見れなくて」

 

その謝罪の言葉とともに線香花火が燃え尽きた

 

「ええよぉ、別に」

 

そう言って彩華が新たに火を点ける。

 

「また来ようね」

「そやな、来年も、再来年もいつか二人で見れたらいいなぁ」

「来れるよ、きっと。そういう機会って案外近い所に転がってるんだよ」

「そっか、そうやな」

 

波の音だけが静かに響く夜の海岸に線香花火の光が奇麗に、でもどこか切なく輝いていた

 

fin