ここは──
逃げるが勝ちねっっっ!!
そう思うが否や今日一日の(短かったけど)旅の友だった杖代わりの木の棒を適当に投げつけて走り出した。

ザッザッザッ......
状況はどんどん悪くなってきていた。
逃げても逃げても、さっきの猛獣らしき足音がついてくるからだ。
そのスピードはこっちが走っているのと同じくらい。
だが、こっちはもうそろそろ疲れてきていた。
それにお腹も空いたし、喉も渇いた。
足が上がらなくなってきている。
でも、逃げた。
(追いつかれたら……殺される)
いや、正しくは殺される『かもしれない』だ。
本当は、猛獣などではないかもしれない。
止まって待っていればそのうち確認出来るだろうけど、猛獣だった場合は殺される。
そんな分の悪い賭をする気にはなれなかった。
「きゃっ……」
足を木の根に引っかけて、転んでしまった。
(急いで逃げないと……)
だけど、思った通りに身体が動いてくれない。
起きあがる体力すらなかった。逃げれない。今の自分に唯一出来るのは──神頼み。
(追ってきてるのが猛獣じゃありませんように……)
ただこの神頼みは、今まで生きてきた中で何回かやっていたが、大抵酷い結果に終わった。
中間テストの返却時、期末テストの返却時、宿題を忘れたとき、etc......。
今回も例外ではなかったようである。足音の主が姿を現したのだ。
それは見たこともない動物で、危険な動物だというのが一目で分かった。
骨格などはチーターのようだが、頭に角が2本ついている。
身体の表面は長い毛に覆われていて、足は短い。
友好的な関係など、とてもじゃないが得られそうにない姿だった。
だが、不思議とその猛獣は襲ってこなかった。
一定の範囲以上は近づいてこようとしない。
その姿は、きっちりとしつけをされたペットを連想させた。
とりあえず、襲ってこないことは分かったんだから──。
(──少し休憩しよう)
疲れていたからだろうか。目を閉じると、とてつもない睡魔と気だるさが全身を襲ってきた。
多分、眠っても襲ってこないだろう。というより、襲ってこないと信じよう。
それだけ考えると、欲求に負けてすぐ眠りについた。

目を覚ましたとき、今度はベッドの上にいた。
(……また移動しちゃってるよ……まあ森の中よりはマシだけどさ)