宿の中は、案外普通だった。
完全に木造の宿で、火事が起きたら一瞬で灰になりそうだけど、昼間みたいにお酒の臭いはしなかったので問題なし。
ただ、怖いお兄さんたちが少し多かったけど、よく考えたら夕食を食べた店もそうだったので、あまり気にならない。
これは耐性が出来たってことかな?
……あ、なんだか自分で言ってちょっと悲しくなっちゃった。
怖いお兄さんに耐性があっても、正直何の役にも立たないんだよねぇ。
お付き合いすることもないし、したいとも思わないし。
ちなみに余っていた部屋は二つらしくて、当然ながら私とアリスさん、ネレウスとアルさんが同じ部屋になった。
「それじゃあ、また明日」
とアリスさんが言って
「おやすみ〜」
と私が付け足し
「あぁ」
とネレウスが相づちを打ち
「ドロドロ隠し子〜……むにゃむにゃ」
とアルさんが寝言を言っているのを後ろに聞きながら、部屋に入った。
部屋は広いとは言えないけれど、ちゃんとベッドと小さな机がある。
ベッドは大きいので、二人が一緒に寝る分には問題ないはずだ。
ベッドがもっと清潔で、室内にトイレとお風呂と冷蔵庫があれば、あっちの世界のホテルに似てるんだろうけど……。
まぁ贅沢は言ってられないよね。
私はここでは無一文で、アリスさんとネレウスの好意に甘えてるだけなんだから。
「晴菜、こんなところでごめんね。明日はお風呂のある良い宿に泊まるから」
そんな私の頭の中を読んだかのように、アリスさんはそう言った。
「いえ、別に気にしないで下さい。ただでさえお世話になってるのに……」
「そう?でも私もお風呂に入りたいから、どっちにしても明日はもっと良い宿に泊まるわよ」
言って、アリスさんはクスッと笑った。
「それじゃ、寝ましょうか。明日も早いし」
「あ、はい。おやすみなさい」
「おやすみ、晴菜」

チュンチュン......
「ん……」
聞こえるのは小鳥のさえずり。
ということは、もう朝か……。
まだ眠いなぁ。
だけど、そんな私の希望を無視して太陽の光は私の顔を照らす。
起きろってことか……。
ゆっくりと目を開けると……見えたのは胸だった。
「──!?」
思わず声にもならない声をあげる。
今ので完全に目が覚めて、それと同時に私は状況を把握した。
身体は強く抱きしめられていて、顔をお世辞にも大きいとは言い難い胸に押しつけられている。
当然ながら、私を抱きしめているのはアリスさんだった。
……寝相悪いんですね。
アリスさんの華奢な腕は、私を逃がさまいと強く強く私を締め付ける。
「んー……どうしよ」
ここで下手に動くと、アリスさんを起こすことになるかもしれない。
……はぁ。
ゆっくり寝させてあげよう。
ここでアリスさんの安眠を妨害するほど、私は自分勝手じゃないからね。
「行っちゃダメ……レイ」
突然、アリスさんがそう言った。
寝言……みたいだけど、レイって……人の名前……だよね。
どんな夢を見てるのだろう。
結構な量の汗をかいていて、涙も少しこぼれているように見える。
レイって人、どんな人なんだろう。
夢の中とはいえ、アリスさんを泣かせるなんて……。
そんなことを考えていると
「あ……晴菜、おはよう」
アリスさんが起きた。