ガーヒンバンクに着くと日が落ちて行く時間帯で辺り一面がオレンジ色に染まっていた。

辺りはもうすぐ暗くなるのに通りは人でごった返している。

 

「案外時間かかったわねぇ」

「途中変なやつがいたからな」

「驚きましたよ、あれは。あんなことよくあるんですか?」

「あってたまるかボケ、たまにしかないっての」

「あ、やっぱそうなんだ」

「それにしても今日はこの街で一泊ね」

「だな、今からは無理だな。宿でも探すか」

 

そう言うと私たちは街の中を中心のほうへ向かって歩き出した。

この街も結構人がいて、大きい。

道行く人たちも活気に溢れていて忙しそうに歩いている。

 

「みなさん忙しそうですねぇ〜」

「そうね、この街はこの国の経済の中心となっている街の一つだからね」

「そうなんですか〜、だから日が沈んでも人が結構出歩いてんですねぇ」

「おい、それは嫌味か?」

「あれ?そう聞こえた?」

「あぁ、完璧にな」

「まぁまぁ、もう少しよきっと」

 

そう、この街に着いた時は夕方、太陽さんがサヨナラを言う時間。

それの時から宿を探して歩き続けること数時間、もうお月さんがだいぶ空の上に上がっている。

ここの月はよく見てみるとまん丸じゃないし、数も二つある。

こういうところでつくづくここが別世界なんだと実感する。

 

「おなか減ったぁ〜、何か食べましょ?アリスさん」

「そうねぇ、さすがにお腹は減ってきたわね、そろそろ何か食べない、ネレウス?」

「む、そうだな。腹は減ったな。しゃーない、あの店でいいや」

「ネレウス適当すぎ〜」

 

私の抗議など聞いてないのかネレウスは無視してその店に向かって歩き始める。その時―――

 

パリィィン!!

 

急に入ろうとした店のドアが吹っ飛んだ。

正確にはなんか男の人が吹っ飛ばされてドアごと店の外まで吹っ飛んじゃったらしい。

通りに響き渡ったその破壊音は通りの通行人の目を止めるには十分だった。

 

「くっ、何だてめぇ!!」

 

あっ、男が立ち上がった。

それを見て店の中からゆっくりともう一人男の人が出てくる。

すらりとした細身で長身、それに何故か上手く似合っている銀髪。

たぶんこの男が吹き飛ばしたんでしょ、この世界なんか野蛮だなぁ〜。

 

「あれ?あなたが仕掛けてきたんですよね〜?それに店の中じゃ他のお客さんに迷惑がかかるじゃん」

「くそっ、こうなりゃ自棄だ!!走れよ疾――ごぶへっ!!」

 

やられた男がまた何か呪文みたいなのを唱えようとした瞬間長身銀髪の男がやられた男に回し蹴りを華麗に決める。

うわ、歯が吹き飛んだ〜、漫画みたい〜。

って感心してる場合じゃないわね、これは。

 

「こんな街中で魔なんて使うんじゃねぇ〜よ。あぶねぇだろぉ?」

「ほまえ、はにほんだ!!」

「あ?なんて言ってんだかわかんねーよ。そこらのチンピラにしちゃやるが、何せ相手が悪かったなぁ〜。これで終わりだ…」

 

長身銀髪の男が再び攻撃の予備動作を見せると…。

 

「ひぇぇぇぇぇぇぇぇえ、おぼえてろぉぉぉ!!」

 

百年位前な感じのする捨て台詞を吐いて逃げて行った。

 

「ちっ、逃がしたか。根性のない奴め。皆さんお騒がせしました〜、もう終わりましたのでご迷惑お掛けしました〜

 

長身銀髪の男は大声をあげて通りの人たちに謝ってる。律儀な人ね〜。

それを聞いて遠巻きにケンカ()を見ていた人たちが離れ出す。

 

「おい、アル。今のはやりすぎじゃないか?」

「あっ、先輩!!居たんですか〜?」

 

へっ?

ネレウスとさっきの長身銀髪の男が仲良く喋ってる。

何!?なに?!知り合いだったの?!

 

「あら?ネレウス、知り合い?」

「あぁ、仕事仲間の後輩だ」

「噂はかねがね聞いております、先輩の奥さんでしたっけ?いやぁ〜きれいな人ですね〜。僕はアルフレッド・グローリーと申します。気軽にアルと呼んでください」

 

そう言ってアリスさんに握手をする。

そのあとこっちを見て…。

 

「あれ?先輩お子さん居ましたっけ?まさか!!隠し――ごぶへっ!!」

「違うわぁ!!」

「そうなんですか!?じゃあ不倫あ――ごぶへっ!!」

「あほかぁぁぁ!!少し事情があってその子をリートスで連れてかなきゃならないんだよ」

 

2連続でネレウスの拳を頭に喰らうアルさん。

一言多いんだね、この人。

 

「そうなんですか?僕はてっきりまた何かドロドロとした物があるのかと思いましたよ」

「もう一発殴られたいか?」

「あらあら、愉快な人ね」

「いえ、遠慮しときます。まぁ、話は店の中ででもってドア壊したままだったかぁ〜。すまんオヤジ、今直す〜」

 

そう言うとアルさんはドアの前に何か丸い模様を描き始めた。

 

「おい、アル。俺がやろうか?お前は時間かかるだろ?」

「いえいえ先輩、これ位スグですよ、それに僕がこわしちゃいましたからねぇぇ」

 

アルさんはそう言いながらせっせと模様を描き続ける。

そうしているうちに魔方陣みたいなのが書きあがった。

 

「まぁ、見ててくださいって、先輩」

「あれ何やってるの?」

 

私は疑問をネレウスにぶつける。

 

「あぁ、直してるんだよ。ドアを魔で」

「魔って、あの摩訶不思議術ですか?それなら呪文を唱えるんじゃ?」

「普通はそうなんだがあいつはちょっとな…。いろいろあるんだよ」

 

そうこう言ってるうちにドアは新品同様に奇麗に修理されていた。

 

「よっこいしょっと…。そこのお嬢さんの疑問ももっともです。名前は?お譲ちゃん?」

 

アルさんがこっち向いて立ち上がる。

うわぁ〜、やっぱり近づくと背は高い…。

すんなり見下ろされてしまう。

 

「晴菜…。美咲 晴菜よ」

「晴菜、あんまり聞かない名前ですねぇ〜。まぁそんなことは置いといてさっきの疑問ですが僕は呪文を詠唱できないんですよ、生まれつきね」

 

そう言うとアルさんは笑いながら店の中に入って行った。