旅は途中までは至って問題なく進んだ。 徒歩なのでたまに休憩を挟みながら、綺麗な道をのんびり歩くのはなかなか乙なものだった。 そう、だった。なのだ。 どうもこの世界、一部の地区では人身売買が行われているらしくて、弱そうな人たちは狙われるみたい。 そして今私たちは、どうやらその弱そうな人たちに見えたようで──。 ガラの悪そうなオッサンが10人程度、私たち3人を囲んでいた。 それぞれの手には武器と思われるものが握られていて、正直怖い。 ただ、こっちの世界では銃といったような文明機器がないのがせめてもの救い。 もしあったら、今頃私たちは身動き一つさせて貰えなかっただろうし。 「あんたらはもうすぐ売り物になる。あんまり怪我させたら価値が落ちちまうから、暴れないでくれるよな?」 オッサンの中の一人が偉そうに言った。 風邪でもひいているのだろう、鼻声でどうにも迫力に欠ける声だ。 武器は怖いけど、人は怖くない……なんだか微妙。 ちなみにアリスさんはクスクスと笑っていて、ネレウスは呆れたと言わんばかりに溜息をついている。 そんなことをしてる間に、男たちはジリジリと私たちの方へと近づいてきていた。 一番近いオッサンで、もう5mほどの距離。 武器のリーチと腕の長さを考えると、後3mほどしか余裕がないかもしれない。 ついでに今にも飛びかかって来そうだし……。 「ディール・スィ・イース!」 ネレウスが突然声をあげた。どうやら先に小声でコソコソと詠唱をしていたらしい。 その声に反応するかのように私たちの周りの土が盛り上がり、一瞬で私たちを中心に土のドームが出来上がった。 一応ネレウスも魔……だっけ?を使えたんだ、ふーん……。 しっかし暗いなぁ……完全に周りを囲まれてるから、外の様子が見えないじゃない……。 「な、魔だと!?」 「逃げろ、下手すりゃ俺らが逆にやられちまうぞ!」 「うわああぁぁ......」 あ……逃げたのか……間抜けな逃げ方だったら見たかったなぁ……。 オッサンたちの悲鳴が聞こえなくなった時、土のドームは一瞬にして崩壊した。 「ケホッ……ちょっと、土埃凄いんだけど?それにあのオッサンたち、逃がしてよかったの?」 「土埃くらい我慢しろ。ちなみにあんなのは次から次へと湧いてくるんだ、いちいち相手にする気にもなれねぇよ。 お前も覚悟しとけ……っと、そろそろガーヒンバングが見えてきたな、あれだ」 ネレウスはそう言って、今まで歩いてきた道のずっと先を指さした。 その先には確かに、おぼろげながらも町のようなものが見えた。