ザー......
雨……どうしてこんなに鬱陶しいのだろう?
半日続いているから?お気に入りの服が濡れちゃったから?
それとも──。
雨は、神様が泣いたときに降るって誰かから聞いたことがある。勿論迷信。
でも、もし本当だと仮定して、なぜ神様は泣いてるんだろう?
私のため?だったらいいなあ……。
彼氏にふられて、泣いて傘もささずに走って、その場から逃げた女のために泣いてくれる神様がいれば──。
(──あんな酷いふられかた、しないよね……)
私が何をしたというのだろう?
ちょっと彼を驚かせようと思って、お気に入りの服を着てマンションに行っただけだった。
でも彼はいなくて、諦めて帰ろうと思ったら、彼は帰ってきた。
ただ、一人じゃなかった。左腕にぴったりと寄り添ってる形で女もいた。
見たこともない女。私は当然文句を言った。
そして返ってきた言葉は
「お前には飽きたんだよ」
信じられなかった。悲しくて、寂しくて、腹が立って……でも、やっぱり悲しかった。
視界の端で、怪しい男がそこら辺の人に片っ端から声をかけている。傘もささず
に、滑稽な格好で。
(……私も一緒なのかな)
ふられたくらいで、傘もささずに泣いて逃げた滑稽な女。
自嘲の笑みが浮かんでくる。早く帰って身体を乾かさなければ、風邪をひいてしまうというのに。
でも、帰る気力が無かった。
「あの……」
不意に、声をかけられた。
見れば、さっきの怪しい男だ。
「人生、変える気ありませんか?」
いつもの私ならどうしただろう?無視して逃げただろうか?
ただ、今日の私はおかしい。正直、どうでも良かった。
「あるわ……変えれるなら、今すぐにでも変えたい。どんな人生でもいいから──」
「なら、ついて来て下さい」
こっちの発言を遮る形で男は言って、ゆっくりと歩きだした。
何も考えず、男の後をついて行く。
どれくらい歩いただろう。10分?30分?それとも1時間?
携帯をどこかに落としたみたいで、時間が判らない。
ただ、時が過ぎていくたびに周りの人が減っていく。人気の無い方向へ進んで行っているからだろう。
この後はどうなるのだろう?
持ち物とかを全て奪われるのだろうか?
どこかに監禁されて、一生家に帰れないのだろうか?あるいは、殺されてしまうのだろうか?
(──別にどうでもいいや)
突然、男が足を止めた。
男にぶつからないよう足を止め、周りを見渡した。
いつの間にかどこかの体育館に来ていたらしい。
天井、壁にはおかしなところはないが、床だけは異常だった。
『魔法陣』と呼ばれる類の物だろうか、チョークか何かで図形が書いてあった。
(……危ない人決定)
「その魔法陣の中に入って下さい。別の世界へと連れて行って差し上げます」
別の世界。どうせあの世とかいうオチなのだろう。
(まあいっか)
ゆっくりと、魔法陣の中に入る。
「これでいいんでしょ?さっさとして」
男は何も答えず、真剣な表情で何かを唱え始めた。
(怪しい宗教か何かね……生け贄をなんちゃら神に捧げる前の儀式ってとこかしら)
唱えているのは聞いたこともない言葉で、更に怪しさを倍増させている。
敢えて例えるなら、坊さんが唱える念仏に近い感じはした。
唯一気になるのは、男が何かを言う度に辺りが暗くなってきて、それに比例するかのように魔法陣が光を放っている。
(蛍光塗料でもチョークの上から塗ってるのかな?関係ないことだけど)
そう、関係ないことだ。どうせもうすぐ殺されるのだから。
そう思ったとき、男が何かを唱え終わった──瞬間、魔法陣の光が強くなる。
眩しいなんてレベルじゃない。まともに目を開けていたら、一時的に目が見えなくなるような光量だった。
だから目を閉じ、光が収まってから目を開けた。
そして眼前に広がっていた光景は
「どこよ……ここ?」
森だった。森の中にいる。さっきの男の姿は見えない。
「どういう仕掛けでこういうことになるのよ……」